「ラブレター?」
驚いた声を出したものか呆けた声を出したものか、混じって中途半端に漏れた声は語尾が異様に上がった。桃井は大人しく頷くを真っ向から見つめる。
「ラブレターって、あの、告白するやつよね?」
「他にない……と思う、多分」
「た、多分って……誰に書くの!?」
桃井は軽い興奮を覚えて勢いづく。対するは気迫に圧され気味に、誰っていうか、うん、と言葉を濁した。効果的ではないが困惑の表れである。にとっては机の上に広げていたノートを片付けながらの会話が続く。
「さつきちゃんならどんな感じか知っていそうだから」
「書いた事ないから分からないけど、ううん、どうだろう」
「告白したい訳じゃないんだ」
「え? それ、ラブレターなのかなあ?」
桃井とは互いに首を傾げた。
「一番近いのはラブレターだもん、きっと」
「みっちゃんとかあっちゃんの方が知ってるんじゃないかな?」
共にバスケ部マネージャーをしている2人の名前を挙げる桃井だが、反応は芳しくない。は話が大きく逸れそうだから相談し辛いのだと言った。そうなのかな、と首を傾げるのに反応はない。
「まぁ、そうか。相手に伝わればいいのよね」
「そうだね。ちゃんならきっと伝えられるよ!」
頑張って、と励ますような言葉を続ける桃井だが、に奮起する様子はない。彼女の影は濃くなっているが、それは桃井自身も同じで教室に差し込む日が少なくなってきているためだ。
「そろそろ部活行かなきゃ」
「あぁ、もう時間ね……今日も、一緒に帰ろうちゃん」
「? うん」
桃井は帰り道でラブレターのようなものを送る相手を訊き出そうと心に決めた。



「ねぇちゃん、さっきの話なんだけど」
「何?」
「ラブレター! やっぱり誰に渡したいのか気になるの」
「渡したいっていうか……」
すっかり日も落ちて暗くなってしまった通学路を2人並んで歩く。街灯や店の明かり、車のライトに照らされなければよくは見えない。
「残したいだけなの」
残したいというの表現に違和感を覚えない訳ではないが、桃井にとって興味の対象は手紙を送る相手だ。結局誰なの、と訊く声が少し上擦る。
「……他の人には言わないでくれる?」
「絶対誰にも言わない!」
あかしくん――照れているような、拗ねているような、幼い口調が呟く。
桃井が見るに、主将を務める赤司とマネージャーのとは役割通りのビジネスライクな関係ならしっかり築き上げている。を“拾い上げた”のが赤司だから入れ込んでいるのかとは思ったものの、そう意外ではない告白に桃井は微笑んだ。は桃井の反応を窺う。
「大丈夫よ、言わないって」
「黒子くんじゃなくて安心した?」
「う」
ぎくり、と言わんばかりに桃井が固まる。誰を想うかが気になるのには、想う相手が被っていないか探るような面も心の片隅にはある。素直な動きをは隠さず笑う。
「まぁ、でも、赤司くんだからなあ」
「みっちゃんなんて赤司様、とか言ってたっけ……」
「確かに様付けしちゃうよね」
2人は揃って声を上げて笑った。



翌日登校した桃井はのラブレターもどき手紙の中身を想像しながらその日の授業を終えた。いつもより教室がざわついているような様子を受けながらもホームルームが長引いた教室を後にする。バスケ部の一軍が使う体育館に向かうのだ。
「ごめんね、遅くなっちゃった!」
「あれ? さつきちゃん、ちゃんは?」
「え、来てないの?」
マネージャー仲間2人と思わず顔を見合わせる。のクラスは既にホームルームを終え生徒もまばらになっていた。とは朝も休み時間も顔を合わせていない。休みかな、と話しつつ3人で部活の準備を終わらせて赴いた体育館では、もうキセキの世代と呼ばれる選手達が揃っている。中心に立っていた赤司はやってきたマネージャー3人に素早く視線を走らせた。
「やはりいないか」
遅かったと怒られる、と身を竦ませた桃井達には何も言わず、主将は手元の紙に視線を落とす。桃井は破られた封筒と共に持たれたそれを見て昨日の今日で本当にラブレターを書いたのかと思わず笑みが浮かんだ。
ちょっと待て、と緑間が問う。
「やはりとはどういう事だ」
「その通りの意味だよ」
赤司は当たり前のように言う。
はいない。もういない」
「もういないって、どういう事スか?」
「これも、その通りの意味だよ。から手紙が届いた」
正確には遺書だね、と淡々とした口振りが続ける。桃井の笑みは固まる。
「君達に対しては詫びがなされているよ。特に桃井」
「え……?」
「3人に仕事を増やし申し訳ない旨書かれているが、桃井には『確かに告げたけど嘘を吐いてごめんね』と足されている」
桃井は思わず赤司から手紙を取る。確かにはっきり書かれていた。選手には頑張れと、マネージャーにはごめんと、そして赤司には好きだと。告白はしているのだからラブレターといえばラブレターだ。しかしどう繕う事も出来ないほど、それは遺書だった。
「嘘よ……なんで?」
俯いたまま誰も、何も言わない。
「なんでよ……ちゃん……」
赤司は黙って桃井から手紙を取り上げる。の思いが届いたのか、その横顔からは分からなかった。



思いの手紙