風に吹かれた制服がはためいていた。伸ばしていた髪が流れていた。
屋上を後にした。
さっき、屋上にいたね。
赤司くんがだんまりの中に言葉を落とした。
「見えた?」
「見えたよ。安静にと言われている時にどこに行ったかと思えば」
「ごめんなさい」
責めている訳ではないけれど、空間を支配する鋭さがある声だった。凛としていて綺麗な声。冷たいようで、とてもあたたかい。
横たわる保健室のベッドはふかふかしている。抜け出していたから冷えていた。
部活はとっくに始まっているのに、赤司くんは隣でじっと座っている。だけど、不参加でいい訳がない。マネージャーをしているのだからそれくらい承知している。この主将は何を考えているんだろう。教室で倒れてしまった私が悪いけれど、運んでもらった私の言い草ではないけれど、付き合ってくれなくても大丈夫なのだ。何のことはないただの貧血で倒れた私なんて放っておけばいいのに。
「バスケしに行かないの」
「行くよ。俺のことより自分の心配をしていれば?」
「でも、もう1時間以上経ってるし」
「やる事は言ってある。」
「赤司くんが練習できないでしょう」
「仕事を放棄することになりながらよく言えるね、。」
視線だけこっちによこした。事実なので何も言えないけど他にもマネージャーはいるのだから穴埋めは為されている筈だ。強くは出られないけれど崖っぷちの立場でもない。
赤司くんの顔は窓の外を向いている。バスケ部が練習している体育館の方だ。やっぱり気にかけているじゃないかと突きたくなった。本人には、言わないけれど。
「早く良くしてくれ」
「私の仕事なら、さつきちゃんが配分してくれるでしょう」
「お前と桃井は違う。」
「さつきちゃんの方がすごいもの」
「役割からして違うんだよ」
赤司くんは呆れているのか投げやりな言葉になっている。私の吐き捨てよりずっと丁寧なのに、不思議なことだ。優しくしてくれなくて、いいのに。
「桃井では出来ないのだから、がいなければ困る」
「私の、役割を」
「落ち着いたら早く来い。部活が終わっては話にならない」
赤司くんは言うだけ言って椅子から立ち上がった。準備万端のジャージを翻す姿が様になっているのだからやはりかっこいい。
もう十分休息は取った。私はみんなのために、私のために、赤司くんのために行く。
「…は、と赤司の味方。」
「置いていくよ」
その背中に着いて行く。
気遣う意味/気遣われる意味