月曜日

僕が学校に着いたのは朝7時半。これから登校してくる群れの監視のために早く来る。休みの後は早く来る人間なんてそんなにいなくて、だからまず応接室に行く。草壁達もまだいない、そんな静かな校舎内。応接室の扉には鍵をかけていないから、まっすぐ行ってドアノブに手をかける。カチャ、小気味良い音、聞きなれた音。誰もいないから窓から見える校庭も静か。だけど聞こえたかすかな音。「すぅ、」ソファの背凭れの向こうを覗き込む。「何してるの。」無言だ。僕が一番乗りだと思った校舎にはたった1人の少女がいた。「早く起きてよ、。」応接室で寝てるなんて。

火曜日

雪の積もった道。公園に行きたいなんてふざけた事を言うから仕方なくついてきた。だって、1人だとどんな群れに巻き込まれるか。偶然といえば偶然、公園には人がいなくて、入口に見張りを立たせてその中で、無邪気に雪と戯れるを見ていた。とても楽しそうに笑った顔が眩しい。眩しい?目が眩むというか、なんだか目眩がしてくる。「とぉっ。」ちょっと目を離していたらいきなり雪球が飛んできた。ボスッ、頭が冷える。「…何?」こっちを向いてニコニコしているのは雪球を投げつけてきた張本人だ。「暇だから一緒に遊んでくれないかな、と」思わなくても一緒に遊んであげるのに。足元の雪を丸めた。

水曜日

足下でビチャビチャと水が撥ねる。溶けた雪が道路に広がっていた。わざわざこんな道を歩きたくはないけど、目の前で、そう、どう考えても目と鼻の先としか言えない程目の前で、うきうきとした様子で跳ねられては嫌な顔も出来ない。いや、普通に出来るけど。ちょっと歩いたと思うとくるりと回ってこっちを見る。見なくても僕はここにいるんだけど。「どうかしたの」なんて聞くとケラケラと笑って小走りになる。声だけ聞くと奔放な性格なのだろうかとも思うが、その目は大人しい笑い方をしている。大人しい笑い方、ってなんだろう。「見て恭くん、桜がもう咲いてるよ!」「桜は嫌いだ、って言ったでしょ。」

木曜日

桜なんか見てにこにこしてるなんて何なんだ、もう。あぁ、でも彼女は幻覚見破れるんだっけ、じゃあ何とも思わないに決まってる。もしかしてあの桜も幻覚だったのかな。珍しくを疑う。あれ、そういえばって幻覚を使う側だったかな?じゃああの男と同じ方なの?僕に咬み殺されたいの?よし、試しに屋上に連れて行こうかな。でも跳ね馬が邪魔しに来そうだ。僕の砦に勝手に入ってくるなんて、本当に最悪な男だ。邪魔だってするに決まってる。「難しい顔してどうしたの?」「君の事を考えていたんだけど。」ねぇ、なんでそんなに退いてるの。目を見開いたがあと数cmのところで止まった。

金曜日

「あ、今週も終わりだね」とが無邪気に笑った。僕は学校が休みになるからそんなに嬉しくないんだけど。は「お休みの間何しよう、何がいい?」何ってなんで一緒にいる前提なの。「暇なの?」「暇だからこうしているんじゃないか、恭くん。」「君の考えなんて知らないよ」とは言い返すものの、しっかり分かっている。絶対に僕と遊ぶつもりだ。どこかに連れ回すつもりじゃないか。「、僕は一緒にどこか行くつもりないからね。」「えっ、だめ?一緒に図書館行こうよ!レポートがあるんだ」って、それは君のレポートじゃないか。勝手にやってよ。「今見捨てたでしょ!恭くんにも出てるよ!」酷い嘘だな。

土曜日

結局自身のレポートもない事が判明したから、今日は晴れてるし、学校の屋上にいた。草壁みたいな人すらいないかな、と思ったら草壁は応接室にいた。変だな、何でいるんだろう。屋上から見えた応接室の窓際には草壁しか見えなかったけど、草壁の口がパクパクしていたし視線がずっと中を向いていた。ということは草壁以外の誰かが応接室にいて草壁と会話しているという事だ。そんなの僕だってすぐに分かるよ。誰と話してるんだろうかフェンス越しに探ってみるけれど全然それらしい人影がない。もしかして草壁は幽霊とでも話しているんじゃないの。違った。窓際に、笑うが出てきた。

日曜日

屋上にを呼んだ。用件はただ一つ、但し当人は理解していない。だって、困惑顔を僕に見せているんだから。「どうして呼んだか、分かってる?」「分からないよ、恭くんは何も言ってくれない。」「言わないと分からないなんて子供だ。」じゃあ恭くんも子供だよね、とがムッとした顔をする。ムッとしているのは僕だ。草壁と2人で、応接室で何を楽しそうに話していたんだ。「恭くん。」「じゃあ教えてあげるよ。僕に無断で、応接室で何をしていたんだい」草壁と。がキョトンとした顔をする。何の話、とばかりに。なんてやつだ。「そんなに咬み殺されたいの」とトンファーを一振り。はそれでも呑気に、あぁ、と一息ついただけだった。「恭くん、秘密にしておいてくれる?」

1週間後
「ボクと恭くんの出逢い1周年記念祝いをしてくれるんだよ。」