呼ばれて、教室の自席に座していた少女は声の方を向く。自分を呼んだ少年――細い輪郭の、静かに佇む彼・雲雀が後方に立っている。
「恭くん。何のご用で。」
「別に、校舎を見回っていたら君がいただけ。…何読んでるの?」
雲雀はの手にあったハードカバーをチラ、と見やる。
「あぁ、これ」
が慣れた手つきで読みかけのページにスッと栞を挟むと、雲雀に手渡す。その本の表紙は鮮やかに彩られている。
「…?何?」
「ファンタジー。なかなかドロドロしているの。」
「ファンタジーなのにドロドロしているのかい?」
「してるの」
「ワオ、変わった本だね」
雲雀は目を細めてパラパラとページを捲った。一般に言われるファンタジーより、確かにドロドロしているかもしれない、と雲雀は思った。
の持っている本を、雲雀はいつも流し読みする。は物語を好んで読むが、活字嫌いでなくとも億劫になるような学術的な本も幅広く読む。それでも雲雀が見かけるのは、ファンタジー系の本が割合的に多いと当人は思い返す。大体ファンタジーは夢の世界を冒険したり、魔法が使えたり、明るいイメージを持つ。しかし、今雲雀が持っている、が読みかけの本はどこか暗い影が途絶えない、その印象が強く残る。
「でもファンタジーだってこんなものでしょう」
「そうかい?」
「大方人間が複数いて、いくつかの派閥で争ったりするその舞台が“楽園(ファンタジー)”だったり、その人間の持つ力が“特殊能力(ファンタジー)”だったりするだけなんだから。」
「…ふぅん」
人間が群れているその描写を見て、雲雀はムッとした顔をする。
「下らないな」
「本の中でも人間は人間だよ、描いているのが人間だもん」
「あぁ、そうだね。…、僕の事見て楽しいかい?」
興味深そうなの視線に、雲雀は本から顔を上げる。
「いや…いや、面白いかな?恭くん」
「面白い…」
雲雀は面食らった面持ちでを見やる。
「恭くんは、群れのこと嫌いでしょう」
「そうだね、特に草食動物は」
「そんな恭くんがこういう風に書いたらどうなるのかなって思ったの」
「…?」
「物語を書いたら」
が噛み砕くようにゆっくり言ったので、雲雀は渋々自分の推論で答え合わせをする。
「僕はそんなものは書かないよ、書く必要も書くだけの欲求もない。君を喜ばせる気もない。」
「うん残念。綺麗なものができそうなのにね」
面倒くさそうに雲雀が「はい」と返した本をは両手で受け取る。栞は大分前の方に移動していた。
「恭くん」
「まだ見回りがあるから応接室に持って来てよ」
「読んでいい?」
「場所変えないでよ。ほら、見回ったから教室出て」
「うん」
「応接室以外行かないでよ」
煩わしそうに雲雀が顎で出なよ、と指示を出した。
君を読む、

Buon Compleanno Hibari,
2012/05/05