ガンガンガン。ガンガンガン。
日もゆるくなり始めた午前。教団の吹き抜けにけたたましいほどのノック音が響く。
音源は団員の部屋の一つ。そのドアは手によるノックではなくキックで鳴らされていた。
「るせえ!なんだ!?」
「ユウくん、ユウくん」
「てめっこの………?…んだよ朝から。」
「町に行こう」
「はっ?」
「町に行くからとっとと着替えろパッツン。」
訪問者・は上機嫌そうに私服のスカートをつまんだ。



と神田が連れ立ってきたのはロンドン郊外の、活気がある町。
ロンドンに近い町なだけあってさまざまなものが飛び交う、“のみの市”のような町だ。
そのメインストリートをお互い珍しく感じる私服で歩く。
「で、何なんだよ、一体。朝からこんなところに連れてきやがって…」
「まぁいいじゃない。コムイさんにちゃんと許可もらってるよ。」
「そういう問題じゃねぇ。リナリーとでも来ればいいだろ、何で俺がお前と…」
がけろりとした顔で神田を見上げる。
「嫌だったの?」
「べっ、別にそうじゃねぇよ」
神田はあからさまにむせ返った。

がふらりと入った雑貨屋に、後ろから厭々神田がついていく。
はそんな様子など気にせず、手近な所にあった物を手に取る。
「ね、ユウくんこれは?似合いそうだよ」
「お前にか」
「ユウくんに」
外を見ていた神田はの手から確認せず物を取り上げる。
視線を手元に移してはたと気付く。華やかな髪留めだった。
「…これ女物だろ」
「うん。」
はまたもけろりとして言い放つ。
店員にくすくす笑われ、神田はむっとした顔でに髪留めを着けた。
「お、似合う?」
「…知るか」
「そうかそうか似合うのか。じゃあこれを2つ買おう」
は、自分に着けられたそれとは別に、色違いの髪留めを手に取った。
「これ、ください」

「ユウくん、ジェリー以外の蕎麦って食べてみたくない?」
「なんだよ、唐突に」
雑貨屋から上機嫌で出てきたは思い出したように神田を見る。
ジェリー以外の蕎麦と言われ、神田は自分がジェリーお手製のものしか食べていないことに気付いた。が笑う。
「文献を基に日本料理を出し始めたところがこの町にあるのよ、ってリナリーが言ってたから。気になるんでしょう」
「……そろそろ昼だしな」


「春先とはいえ、まだまだ寒いね」
「あぁ」
日本料理屋を出た後も、と神田は連れ立って(というより神田がにくっついて)町を回り、気付いた頃にはだいぶ日が暮れてきていた。都市ロンドンの近場といえど、中心部よりも空気が澄んでいるこの町は気温がかなり低くなる。
「さて、ユウくん」
「あ?」
「今日はお付き合いどうも」
「あぁ…なんだよ、
は神田をじっと見ていた。
「歩いて帰りませんか」

「きれいな星空だね」
「これが見たくて歩きか?」
「ご名答。そうだよ」
「……。」
空を見上げれば広がる星空。
と神田のほかには人影もなく、人影と同じように街灯もない。2人が歩く道を照らしているのは月だ。
「多分、そろそろ」
?」
「あ、ほら、空。」
神田は少ない言葉を辿って空を見上げる。
「…流星?」
「見られるだろうって言われたから、暇そうな人でユウくんなら付き合ってくれるかと。」
「暇そうなってなんだよ…出かけんなら出かけるで事前に言えよ」
どうせいつも突発的でしょう、は微笑した。



屑デイト



「ところで、
「なに、ユウくん」
教団に到着して各々の自室に向かおうとする途中、神田は思い出したように口を開いた。
は神田が言おうとする事の見当もつかずに返事をする。
「なんで…あの女物の…2つ買ったんだ?」
神田の恥じ入るような遠慮がちの声に、は無遠慮なまでにケタケタと笑う。神田はあからさまに不機嫌そうな顔をした。はそんな神田の様子を見てまたケタケタ笑う。
「あのね、ユウくん」
「あ?」
「それはね…」
神田はすぐさま自室に戻り、愛刀・六幻を手にして、逃げ出したを全速力で追いかけた。