ただ見ていただけ。
だって、手を伸ばしても
届かないんだもの。

ふわっ、と自分に吹き付ける風が心地よくて、くすぐったくて
いつもここに来ていた。

誰にも気付かれないだろうな、なんて考えながらここはボクの指定席だから誰も入れさせたくない、とか考えるようにもなった気がする。
でもそうじゃない。
知らない奴に触れさせたくないだけなんた。

「いつまでもそこにいるといつか落ちるぞ」
ビクリとして首を回せば、ボクと同じように団服を着ていない、私服のユウくんがいた。
手には薄い、羽織物。
「落ちないもん」
「落ちなくてもそんな薄着でいたら風邪引くぞ」
「…っ」
ここに吹く風みたいに、ユウくんは手に持っていた羽織物をボクの肩にかけた。
ユウくんの体温が、移っていた。
「何やってたんだ?」
「手を伸ばしていた」
「…あ?」
「手を伸ばしても、神様は幸せをくれない」
「……」
「でもボクにはそんなもの、いらない」
「じゃあ何で手を伸ばしてんだよ」
「だって」

だって、キミが来てくれるから
そんな言葉は秘密だよ。

「おら、とっとと部屋に戻るぞ」
「っ、きゃ」

手をグイと引き寄せられて、気付けば気持ちのいい、温かさ。
ボクの1番好きな…そう、この温もり。

「優しすぎるユウくんだなんて、明日は嵐?」
「っるせーよ、黙っとけ」

見逃さないよ、その赤い顔。また笑いの種にしちゃうんだから。

「んだよ」
「いーや、何でもない」
「…チッ」

上から降ってくるやわらかい感触に、軽く身を捩じらせる。


「ユウくんが変だね」
「誰のせいだ」

ふっと笑ったら顔をふいと逸らされる。

素直じゃないのはどっちも同じ?
いや、絶対ユウくんのほうが捻くれてる。

「久々にお茶でも淹れますか」
「…あぁ」
「茶菓子はいるかい?」
「誰に聞いてんだ」
「ユウくん」
「…テメェ喧嘩売ってんのかよ」
「いや、欲しいといったら明日は絶対嵐だな、と」
「うるせぇ」

ううん、同じかもね。

さてと、今日はどれくらいぶりにユウくんにグリーン・ティを淹れてあげるんだろ。
久しぶりだからうんと苦く淹れてやろう、っと。

駆け出せばユウくんは、笑っていた。



いつかの日々に



今日という日はこの世の誰より、神様よりも幸せでした、って知らしめてやるんだから。
ユウくんからだって、命の残量が尽きる日を、絶対、絶対に神様からも奪ってみせる。