っち!海常来ないスか!?」
「行かないよ」
「早っ…」

黄瀬はがっくりと項垂れた。は気にも留めずさっさと立ち去ろうとした。が、引き下がらない黄瀬に腕を捕まれて前のめりになる。

「私まだ仕事があるから邪魔しないで。」
「ちょっとくらい平気っスよ。ねーっちー」
「……。」
「すんませんっスもう邪魔しないんで」

の目は明らかに侮蔑の意を表していた。一応腕が放されたので、はバランスを取って立ち直した。突き放された黄瀬は不満そうにを見つめるが、相手にされる様子はない。

っちー…」
「私は洛山に行くの。海常には行かない」
「そんな遠くに行かなくったっていいじゃないスか!一緒に海常行こうっス!」
「やだよ。」
「つれないっスね」

話を振った黄瀬の方が陥落寸前である。

「俺っちにマネージャーして欲しいんスよ」
「いい子ならいっぱいいるよ黄瀬くん。ファンの子なら献身的だよ」
「それは勘弁してほしいかも…」

とにかく、とは付けた。

「私が行く必要はない。洛山に行くと決めたし」

それだけ言って足早に黄瀬から離れていく。駄々をこねる子供のように、黄瀬はバタバタと追いかけての3歩後ろに張り付いた。先を行く少女は分かっていても止まらない。むしろ徐々に速度を上げるのだが、圧倒的な歩幅の差で広げられる訳はなかった。ついには走り出しても2人の距離は変わらない。

「黄瀬くんついて来ないで」
「海常良いと思うっスよ!俺が退屈させないスから!」
「どんな言葉で釣ろうとしてるの…」
っちってばー!!」
「赤司くん、黄瀬くんが邪魔してきます」

ぴたりと、黄瀬の足が止まった。の前には確かに、華奢な主将が悠然と立っている。は何も無鉄砲に逃げていた訳ではないのだ。

「キャ、キャプテン、その」
「…邪魔をするのは勝手だが、練習はどうしたんだい黄瀬。」
「す、すんませんっス!!」

こうして黄瀬はすごすごと来た道を引き返していった。赤司は実に冷めた目で見守る。一気に遠ざかる後ろ姿を横目で追って、はぽつりと、隣に立つ赤司にも聞き取れない声で呟いた。

「海常なんか、やだよ」



Je te veux



強固な守りを得たにアプローチし辛くなって、黄瀬は若干気のない練習を続ける。そんな日が幾日かあってコートに入ったある日、赤司の赤くて赤い白い目が彼を抉った。

「…何スか」
「何、か。何というなら…そうだね」
「?」

もったいぶるように区切って赤司は続けた。

「海常進学者が2人になったんだけど、黄瀬。」
「2人スか?」
「一体うちのマネージャーに何を吹き込んだんだ」
「…!」

その日の黄瀬は確かに絶好調だった。
しかし、卒業するまでの数ヶ月間、彼がバスケ部に行き難くなったのも確かだった。