飲料用自動販売機の前で。ただ立ち往生する女子生徒がいた。買い求めるでもなく購入したものを飲むでもなく、自販機の前で商品を眺 めていた。
マンモス校である箱庭学園敷地内とはいえ人通りはなかったので不審に思う者は誰もいない。しかし、人通りのない所にふらりと現れる 影はあった。
「『ちゃん』『何してるのー?』」
「ひゃあああぁ!」
女子生徒――呼ばれたは驚いて振り返る。球磨川が無邪気な笑顔を至近距離で見せていた。
「きゃあああ!?近い近い近い近い近っ…!」


カフェオレの


離れようとしたは景気よく、自販機に後頭部を強か打った。
「『わあっ!?ちゃん大丈夫?』『ごめん、そんなに慌てて逃げるとは思ってなくて…』『で、何してたの?』」
「いたた…びっくりするよ、もー!」
互いが互いに18歳にしては幼い印象を受けるためか、やり取りまでもが幼い感じだ。
「私は何買おうか考えていただけよ。禊ちゃんこそ、何してるの…」
「『んー?僕?』『ちゃんを見つけたから来てみたんだぜ』」
「…それだけ?」
問われた球磨川は『何その疑いの目!』と膨れっ面を見せる。
「『ちゃんがもう5分以上ここに立ってるからさー』『面白くって』」
「え、そんなに悩んでた?って禊ちゃんそんなに見てたの!?」
「『最初にカフェオレ買おうとしたのにいきなり手を止めちゃうから…』『次にはお茶にしようとしてまた止まっちゃうしさ!』」
思い出すようにしながら球磨川が言葉を続ける。
「『で、カフェオレに戻って止まったまま動かなくなったでしょ。』」
「さ、最初から見てたんだ…早く声かけてくれればいいのに」
は傍らで抱いたただのストーカー疑惑をとりあえず捨てる事にした。
「ほら、考えたらカフェオレって飲んだ後味が残るし、でも甘いもの飲みたいし…だけどカロリーとか気になって」
「『ふーん』」
「禊ちゃん、今どうでもいいって思ったでしょ」
「『いやいや!そんなことあるよ!』」
「あるの!?」
歪まない笑顔に、は一瞬殺意を覚える。が、そんなことはおくびにも出さず球磨川同様笑顔を保つ。
「『というかちゃん』」
動いた球磨川が先程までがその目の前を独り占めしていた自販機に向かう。
「『そういう時はこうすればいいんだよ!』」
ガコンガコン、と。投入口に小銭を入れて、ボタンを押した結果の飲料が続けざまに取り出し口へ落とされた。カフェオレとお茶。
が迷ったものを両方とも球磨川が買ったのだ。
「いや…え?禊ちゃん?」
「『どうせちゃんちょこまか動くんだしいいじゃない』『ずっと悩んでたら日が暮れちゃうぜ』」
球磨川は買ったものをに押し付けながら目を細める。は球磨川に押し付けられながら目を丸くする。
「『これは僕からのプレゼントってことで。』『いらなかったら捨てなよ』」
「あの、捨てないけど、ちょっと」
唐突な解決に狼狽えるが、もう一方はそれを気にせず背中を向ける。
「ま、待ってよー!禊ちゃあああああん」
ひらひらと手を振る球磨川を、は急いで追いかけた。