十二分に分かっているつもりでいても、彼女の事は誰にも分からない。
品行方正、眉目秀麗、才色兼備のクラスメイト。妖怪に抗うだけの術は持つ少女。しかし何よりは俺も敵わない、普通の女の子なんだ。
私立盟王高校は男女共学のなんて事はない進学校だ。クラスにはも海藤もいるが、他に取り立てて言う事もない。いたって普通の高校だ。
いたって普通にミーハーな子達はいるし、いたって普通にいじめや妬みもあった。
そして、それが一つの大きなネック。
「南野、昨日のテストどうだった?」
「まあ普通、かな。」
「見せろよ」
「ん」
海藤とクラスメイト外の関わりを持ってから、戯れに言葉を交わす時間が出来た。それくらいがちょうどいいのかもしれないと思う。休み時間をただ読書や教室移動で済ませるだけでは到底我慢しきれない。
人波の向こうに見えるをどうしても目で追いかけようとしてしまう、これは充分悪癖だ。
しかしながら悪癖を抑える以外に少しばかりの嬉しさも訪れた。
「…お前本当にどうでもいい所で間違えるよな」
「それはどうも」
「へぇ、今回はどこを履き違えちゃったの?」
躊躇いもなく、が会話に混じる。クラスに限らず、周りを配慮してからとはいえ彼女と校内で話せる事は確かに多くなった。
やはり2人で話すには、少々視線を感じる。女子のそれはなかなか行動が伴いそうで、とてもではないが、恐ろしさが漂う。
「あぁ、どうでもいい所で、ね。」
「ふぅん。勿体無いわね」
「さんのも見せてくださいよ、どうだったんです」
「…それならフェアに海藤くんのも見せてもらいましょうよ」
「俺のを見てどうするんだよ」
に促されて、のろのろと海藤の答案用紙が出された。は自分のものを取りに動いた。
「お前ら、堂々していればいいんじゃない」
「何の事です?」
「俺から見たらそう思うよ。巻き込むなって、南野」
平素変わらぬ態度の海藤がゆったりと構えて呆れ顔を見せた。
「のろけだろ」
「…」
そうだろう、何だかんだと言いつつ手段を探すのだから。俺もいつからそんなに少女1人へ依存し始めたんだか。ただの人では済まなくなった。
「南野くん、そんな顔で黙っていてもただの嫌味だ。」
にこやかにが戻る。
「俺が?どんな顔ですか?」
「悩ましげに眉間に皺を寄せる美少年顔?」
海藤が吹き出す。
「そのままだな」
「そうでしょう?ほら、貴方よりも悪い点数のテストですよ」
「それは心が痛みますね。」
「ど、泥棒ーっ」
「…は」
「あぁ、『嘘つきは泥棒のはじまり』」
一瞬の迷いの内で海藤が答えを出す。も面白い言い方をするものだ。こういう、人と違うところがやはり1つの魅力なんだろう。
「さんも充分つまらないところで間違えていますよ」
つまらないところで間違えていた彼女はイラッとした顔で、引きつった器用な笑顔になる。海藤がまた吹き出す。
「引きつり笑顔の浮かぶ美少女顔で。」
「海藤くん、失礼だわ。」
「そのまま言った、だけだろ」
「いいじゃないですか、美少女顔。」
「そこなのよ南野くん!」
「「?」」
ああ、彼女だけは
話すが美徳
どうしたって分からない