宗像 形という自称殺人鬼は寂しがり屋な性質だった。彼のルックスではそれもひとつの魅力になるかと思う。それはいいのだ。
『枯れた樹海』に友達が出来たという衝撃のニュースはその当日の内に私の元へ届いた。それはそれは吃驚仰天、私だって遠巻きに距離を置かれたのにね!物事は容からとも言うから容だけ嫉妬してみるが意味は全くと言っていいほどない。友達だという人吉くんがいい子だというのもあるけれど、やっぱりあのさみしんぼうが認めた友達なのに拒絶なんてできないのだ。
それでも本音としては、私も友達にしてほしかった。出来るなら真っ先に、最初から。それができたら今こんなに悶々とは
…していなかっただろうな。
「あぁ…もうっ!!」
人吉くんは宗像くんと何度か遊びに出かけたというのに!何となくの言葉で誘ってみようかとしたのだけれど、全てかわされてしまった。それが、少しつまらなかった。
私だけを見てなんて言わないけれど、いつかこちらを向いてほしい。
自分の部屋にあるものを、無意味に壁に投げつける。あとで片付けるのが面倒なだけで何の生産性もないこの活動に勤しむ。手近なものなんてクッションくらいしかなくて繰り返し繰り返し繰り返し同じものを同じところに当て続ける。やりながら思う。本当に、馬鹿みたいなことだ。それが腹立たしくなって、無意味なはずの行動をさらに行う。
「ばか…みたいだ…っ!!」
もう、自分のやっている事に嫌気が差しているのに、余計に加速がつく。止まらない止められない、止めたくなんかない。たったひとつのそれだけの事のために、こんなにも気を取られるなんてくだらない。分かっていてもこの衝動はどこへ去るでもないのだ。
ブーッ ブーッ
衝動の中でケータイが慌しく振動した。
「…? はい…」
『もしもし。さん?』
「! 宗像くん…」
宗像くんから言われた事を思い出す。目の前にいたら、殺したくなってくるけど、電話の向こうなら殺せないよね。
『電話していてもいいかい?』
「うん、大丈夫…」
衝動が少しずつ治まっていく。
「どうしたの…?」
『いや…話して、いたくて。あまり元気ではないようだけど』
「平気だよ、宗像くん」
『そう。実は、お願いがあるんだけど』
宗像くんが、お願い?彼の口からはじめて聞くその単語に少し驚く。一体何だろうか、続く言葉を待ってみるが、何も聞こえてはこない。
「あの…宗像くん?」
『聞いてくれるの?』
「え、うん」
それでも無言は暫し続く。それは構わないけれど、電話の向こうの宗像くんから半ば離れた意識でぼんやり考える。
彼の異常は比例すると言っていた。それならば…

いっそ、ころして

『ごめん…さん』
「な、何が…?」
『上手く伝えるのが、こんなにも難しいとは思っていなかったよ』
「違う、人間だからね」
『うん』
沈黙が破れたと思ったら、なかなか本題には至らない苦悩の様子だけしか伝わってこなかった。寡黙とまでは言わないけれど、あまり口を開かない彼からしたら余計にそう感じるかもしれない。私のようにがたがたがたがたがたがたがたがたがた、これほど自分を主張すれば得意になるかといえばそうでもない。所詮計測器が違えば全てが変わってくるのだから。
『うん、あまり難しく言わないことにするよ。聞いてくれるかい?』
「聞くよ。」
『あのさ…』