ひゅうっ
そういって気付いたときには目の前を瞬時白いものが横切った。
「…――!!」
誰かが声にならない叫びを上げた。
っ!!」
私に向けた、ものだった。
「…野球部?」
声を聞いてから、気付いた。



「悪ぃな、手滑らせちまって…」
「珍しいね、武ちゃんはそんな事殆ど無いのに。」
「よそ見しててさ、ついそっちやっちまったんだよなー」
ははっ、と明るく笑う武ちゃんこと山本武はさっきの白いもの、つまりは野球用のボールを投げてよこした本人だった。野球部のエース、我が幼馴染。
「でも当たらなくてよかったぜ、結構あのボール硬いもんなー」
武ちゃんが投げると半端無いダメージ付きで当たるだろう。それほどまで危険ともいえるが、コントロールも上手い彼には普通そんな心配はいらない。
「間一髪だったね」
私がクスクス笑うとホント悪い、とすまなそうに、でも明るく笑った。
責めているつもりは無いが、武ちゃんは内心でちょっと自分にむかっ腹を立てているかもしれない。負けず嫌いは自分自身も対象になるらしかった。
「ねぇ武ちゃん」
「ん?何だ?」
「なんでよそ見したの?」
「えっ」
明らかに気まずい顔になった。結構ハッキリした表情の変化がある武ちゃんは分かりやすい。別に、後ろめたい事なんか1つも無いのだろうが。
「キャッチの相手、いたじゃん」
「うん」
「その後ろに、お前…がいたの、見つけちゃってさ」
「む。」
「もう帰りかなー、なんて思っててそっち投げちまった」
なんて、素敵な話だろうか。また、クスクス笑った。
「…なんだよ」
「私がボール投げようとしたときに武ちゃんがいたら全力で投げつけちゃおーと思って。」
「なっ、お前〜っ」





ふざけていられるのは、幼馴染のときだけだから。