「…何ですか、これは。竹ですか?」
無愛想に尋ねる少女は、という蒼い髪の女の子。何でも、ヨーロッパの方から来たらしいんだが、うちの親戚だかなんだかとかっつーことで、ここで一 緒に暮らすらしい。
ここって俺の家だから、並盛商店街の竹寿司なんだけどな。今この女の子とこうしているのはその玄関口なわけなんだけど。
「これは、竹じゃなくて笹な。」
それも7月7日に出してたのをもう一回引っ張り出してきてる。その笹の設置担当にされた俺に、がくっついてきてこの状況。
「なんで、その、ささ?」
「そう、笹」
「…笹をここに置いているんですか。通行の邪魔になりませんか」
「ははっ、は面白い事言うなー。これは日本の行事の一つだから、誰もそんなこと思わねーよ」
「日本の行事?」
「そう」
日本語は堪能だが、文化についてはあまり知らないらしい。7月7日っていったら有名だと思ってたんだけどな。まぁ、もう8月だから仕方 ないのか。
「七夕だよ」
七夕、ですか、とは眉をひそめる。なんでこの子はこんなにリアクションに乏しいんだろう?
答えを聞いては家の中に入っていく。

「武ー、置いといたかぁ?」
親父の声に、読んでいた漫画から顔を上げる。
「おう、置いといたぜー」
「そうかぁ、ならいいや。ごくろーさぁん」
お互い目の前にいるわけではないので、大きな声でのやり取り。そういえば親父のほうから、小さくの声が聞こえる。まぁいいか。
また漫画を読み始めた。

「武くん」
「ん?なんだ?」
漫画を読みながら仰向けになっていた体を起こすと、部屋の入り口にが立っているのが見えた。暑いからか、俺のに対するイメージとはだいぶ違うラフな格好だ。
それにしても、なんつーか、武くんという呼ばれ方はむず痒い感じがする。
「折り紙ないですか」
「折り紙?なんか使うのか?」
「はい、剛さんが七夕の飾りを作ろうという話をしてくださったのですが、材料となる折り紙がないと仰っていたので。」
なんか、は話し方からしてむず痒い。畏まり過ぎじゃねーかな、とかこの3日で何度も思った。ただそんな事を言っても無駄そうだった し、むしろ無駄以前に聞き入れてもくれなさそうな感じだ。
「折り紙なー…ちょっと待っててくれよ、今探すわ」
「はい」
そこも「うん」とかじゃないのな。
探すといってもまずなさそうなものだが、机の引き出しを適当に漁る。勉強はツナん家でやったりとかばっかりで自分の机の中にはそれ らしいものが入っていない。ここにはないか、他の段かな…あった、プリントの奥。
「あったぜ、えっと…
「はい。ありがとうございます」
これでこの名前を呼んだのは10回目に行くか行かないか程度。なんとなく呼びづらさを感じるし、実際呼ぶときもちょっとどもるけど当 の本人は気にも留めないらしい。
「七夕の飾りだっけか?」
「はい、作れますか」
「んー、どーだろな。案外こう、ちゃっちゃってできたりしてな」
「一緒に作りますか」
「…い?」
とりあえず、折り紙片手についていく。

「おぅ親父、俺も作るぜー」
「なんだ、来たのか武。来ないかと思ったのによぉ。ちゃんにも教えてやれよ」
「教えてやれよ、っつーか親父が教えるんじゃねぇのかよ?」
ははっ、そう笑って受け流される。渋々いわゆるダイニングたる席に着くと、すでに座っていたが折り紙の封を開けていた。
「これで、折り紙足りっかなー。短冊なんかも作るんだろ?」
「足りなかったらおめぇさんに頼むわ。」
「あいよ」
「それでしたら、私も」
隣の小さな声に、親父共々呆気にとられた。

「……」
「………。」
「……………」
「………………なぁ」
沈黙に耐えられなくて声を出したのは俺のほうだった。は黙ったまま、目線を上に上げる。折り紙を買いに出たはいいけど、どうも調子が狂って仕方ないような。
「やっぱり、も並中に来んのか?」
「…多分並盛中なんでしょうね」
「へぇ、まっ同じクラスになったらよろしくな!」
「はい、よろしくお願いします」
ほんと、なんか堅っ苦しいな。は、何か嫌な事でもあるのか?

「ただいまー」
「買ってきました」
「おぅ、おかえり!先に夕飯にしようや、あんまり遅くしたくねぇだろ」
「ん、そーだな。も?」
「そうですね」
あれ、、なんか少し、変わった?この、極短時間の間に…気のせい?親父なんか気にしてもいない感じだし。
やっぱり気のせい…なのか?

「あの…」
「え?」
自分の部屋で、もう寝ようとしていたときだった。
が、扉の向こうにひっそりと立っていた。
「どうかした?」
「その、星がきれいだから…見たいんですけど、剛さんが1人じゃだめだって」
それはさすがに、そうだ。もう日付が変わるし。…1人じゃだめ?
「俺も来ないか、って、そういう?」
「はい」
「まっ、別に眠くないし星なんてそうじっくり見ねーしな。散歩がてらでも見っか」
が小さく笑ってみせた。

「…で、今織姫と彦星が会ってるっつー話。
ホントは1ヶ月前だけどな、地域によっては今日なんだってよ。」
「へぇ、スターフェスティバルってそういうお祭なんですか。
漸く知ることが出来ました。ありがとうございます。」
「ん、どういたしまして」
七夕七夕というから何の事か知らなかった、なんてそんなことだったとはな。
について並盛商店街を歩いている間、黙っているのも居心地が悪く、に七夕の起源の昔話を少ししてみた。英語では七夕の事をスターフェスティバルというから知らない、とがきょとんとしていた。ヨーロッパの方ってことは、はイギリスとかから来たのか?
それにしても大分打ち解けたもんだ。この半日で彼女はとても変わっていた。半日で急に変わるものなのか
「あの」
「うん?」
「えっと…今日から、よろしくね」
「え?」
が敬語じゃなくなった。今日からって何だ。は笑った。
商店街の時計。日付は、変わっていた。
「もしかして、急になんだろうとか思ってる?」
「え…ま、まぁ、だって…」
「だって今日から山本だもの」
「は、え?」
「昨日までだよ。他人だもん」
苗字の話、らしい。つまり、あくまで苗字が違った=他人だったから、ずっと冷めたような感じだった?
親父が何も言わずに普通に対応してたのはそういうこともあったからか、それとも
「今日からは家族として、よろしくね」
「あ…よろしくな。」
名前を普通に呼んだのは初めてだった。







「よう、おかえり。どーでぇ日本から見る星は、なかなか乙なもんだろ?」
「やっぱり違うものですね。楽しかったですよ、ね、武ちゃん」
「お、おう」
「(織姫さんよぉ……お前の彦星は、“武ちゃん”かい?)」