「……。」


圧倒的、支配者の如く凛として立つ姿すらも綺麗な人だ。
この部屋には私がいて棺があった。スーツの男性がこの部屋にきたと思ったら、紫の炎と共に銀に光るトンファーを振るった。硬い音を響かせて、棺だったものが飛び散る。つまり、私の目の前にあった棺の顛末は木っ端微塵のスクラップ、そう、無用物。


「なくした、ね」
「なくすことで僕の仕事が捗ると言っただろう。」


だから、当たり前でしょ、とトンファーを手慣れたように回しながらその人が言う。そう言ったからと、直後に実行に移す人もそういない。あっけにとられるのは当たり前と言えば当たり前の話。
そんな事はさておき、本当になくしてしまった。あの、優しい目の人が用意したその棺をなくしてしまった。彼はどんな反応をするだろう。


「ボクの棺ではないけれど」
「…何?」
「ボクの棺だったんだとしたら」
「知らないな、もう君のものは無い。」


素知らぬ顔でその人は私の斜め前に立つ。後ろ姿からでは表情が見えないけれど、特別味のある表情はしていないであろう事は想像がつく。どこか無機質でいて、意味のある人。


「君のものは無くなったよ」
「元から無いよ」
「あぁ、そう、仮定だったね。」


フッと軽やかな笑いが耳に届く。私を見下ろした顔は口角が上がっていた。


「ねぇ」
「何か」
「そこを全く動かないなんて、意外だったよ」
「そう」


動かなかった。私の目の前の棺が散っていても、私は無くなる傍らに在り続けた。そこに目がつくこの人は他の誰かと一線を画している。そんなところに、目をつけるものではない。皆が皆、逃げようとするからだろう。だからこそ、この人の目にとまったのだろうか。


「やはり、君は使えそうだね、
「……名前…」
「…さっきもそんなこと言っていたね。君の名前がどうかしたかい?」
「ボクはあなたを知らないけれど、あなたはボクの名前をどうして知っているの」
「ふぅん、気になるのかい?」


何ともなくただ、その人も興味本位であるかのように聞き返された。この人が正直に言おうと思ったのだろうか。
でも、私は1つ嘘をついてみた。私はあなたを、知っている。


「なら教えてあげようか、?」
「…別に、そんなこと調べがつくでしょう」
「なんだ、よく分かっているんじゃないか。、もっときちんと説明してあげよう」


嬉々とした顔をして、この人、つまり雲雀恭弥は楽しそうに私と視線を合わせる。


「君には僕の下で動いてもらう。」
「…そんなこと、彼が」
「沢田綱吉の事かい?」
「っ、そうだよ」


惑う事なく、雲雀恭弥が彼の名を射抜く。沢田綱吉。優しい目をした、優しすぎる優しい青年。青年と言い切るには、どこかまだ幼さすらあるかもしれない。
跡形も残す事を許されなかった棺に少し顔を歪ませる。


「沢田綱吉ね…関係ないな」
「たとえボクが彼の部下でなくても、関係ない事はないはずじゃ」
「後から言えばいいさ。それで、
「…何」
「それで、一体僕の事が分からない振りをするなんてどういう事だい?」
「何、を言って」
「僕の事を知らないで、どうして沢田綱吉と関係ない事はないと言えるんだい」


あぁ、しまった、雲雀恭弥がこんなにも言葉をしっかりと踏んでいるなんて。雲雀恭弥の瞳がうっすら輝き、細められる。


「思っていたよりも柔軟だね」
「思っていたよりも、って、キミは、ボクのこと知って…」
「もちろん知っているけれど…あぁ、君は知らされていないのか」
「知らされていないも、何も」
「君にはこれから僕の為に動いてもらう」


…私の所属は、確かに沢田綱吉、彼の下だった。その彼は何も言わずに、ただ、私にこの部屋を与えた。棺とともに…与えられたわけではない、案内されてきた。まるでここが私の居場所と言わんばかりに、優しい目のまま彼は笑った。

ちゃんは、静かだね。これは君のものになるかもしれない』
『ここはね、君のためのところであって君のためにならないところなんだ。』
『…あぁ、もう行かなくちゃ。またね』

意味も分からぬまま、ただ私はここにいた。ここにいて、いつか朽ちるかのように。
気付いたときには雲雀恭弥が来て、声をかけられたと思ったら目の前で棺が舞う、舞う。会話が続けば雲雀恭弥は笑った。なんてこと、どういうこと、私は確かに知られていないはずだった。


「僕はずっと君を知っていた」
「わたしは、あなたがきらいです」


だから、その手を差し出さないで。


「僕は君の事を嫌っていない」
「…わたしは」



冷たい声が溶けて消えた。