「そこにあるものは君のものかい」
カツンカツンと靴の音が響いたと思ったら、すぐ後ろに人が立った。
後ろに立った人を、正座していた私は顔を覆った手をどけて見上げる。背は高いので見えにくいが、顔貌は綺麗な人がそこにいた。スー ツをピシッと着こなした男性は聞こえなかったの、ともう一度言う。
「そこにあるものは君のものかい」
そこにあるもの。この部屋は床が大理石で、この部屋に置いてあるものは、今は私の目の前に有る棺だけ。今ここに在るのは私とこの人 だけ。
「どういう定義だとボクのものなの」
「……君が君のものだと思うなら、君のものだとしたら。」
一瞬、ほんの一瞬驚いたような顔をしてからその人の答えが返ってきた。
「じゃあボクのものじゃない」
「ふぅん。じゃあ、これはもらっていいかい」
「ボクのものじゃないと言ったのにどうして訊くの?」
「一応訊いてみたんだよ。ならいいね、これは僕が持っていくよ」
「どうして持っていくの」
「どうして?」
私にだって、持っていく理由を聞く権利くらいはあるだろう。だって、その棺は私のものではないけれど、その棺は、私の入る棺。
「強いて言うなら、そうすることで僕の仕事が捗るからだ」
「これを持っていくことで、捗るの?」
「違う。これをなくすことで僕の仕事は捗るんだ。」
よく、分からなかった。なくす手間が増えるだけだろうと私は思う。その人は続けた。
「それとも、君のものでなくても、君にこれは必要かい」
「…ひつよ」
う?必要だろうか、果たして。私が用意した訳ではないし、それを頼んだ訳でもない。必要だろうか。これを用意したのは優しい目をし た、居場所の雰囲気にそぐわない人。
キィィィン…「いらないね、」
目を離していた内に、その人は紫の炎とともに鋼鉄のトンファーを振るった。顔貌と同じように、その振る舞いは綺麗だ。
「待って、私の名前…」
「」
硬い音が切ないほどに部屋に響いた。